出荷数は月30頭のみ、「尾崎牛」の鉄板焼に込めた願い
#食・グルメ
2025.1.17

宮崎の知ってほしい場所をお届けする「さんぽ宮崎」。
本日は宮崎一の繁華街「ニシタチ」にある、鉄板焼尾崎牛「紫鈴〜rindo〜」をご紹介します。

月の出荷数はわずか30頭、世界でも評価が高い希少和牛「尾崎牛」を扱う、宮崎でも数少ない店舗のひとつ。尾崎牛の素材を最大限に味わえる鉄板焼、こだわりのワインも人気です。

2014年の創業から10年、尾崎牛の鉄板焼に込められた願いとは?

「紫鈴~rindo~」オーナーで、鉄板料理人の斉藤恭介さんにお話を伺いました。訪れた人の多くが「特別な人とすごしたいお店」と口をそろえる、その理由に迫ります。

「紫鈴~rindo~」オーナー兼鉄板料理人の斉藤恭介さん

にぎやかなニシタチから一転、穏やかな空間

宮崎一の繁華街「ニシタチ」、観光客はもちろん、地元人たちも一同に集う場所です。 そんなニシタチの中央通りと北恵比寿通りが交差する一角に「紫鈴~rindo~」の扉があります。

扉を開いた先には、個性的な木目デザインのカウンターに鉄板がひとつ。
斉藤さんが調理する小気味良い鉄板の音、鉄板焼特有の食材に火がとおる音が店内に響きます。

料理を目・鼻・耳で感じることができ、斉藤さんの細かい動きや真剣な眼差しまで観察できる距離感です。

来店の度に、新しい感動がある

「紫鈴~rindo~」のコースは3種類。
メインディッシュの尾崎牛だけでなく、先付・前菜など、斉藤さんがこだわり抜いた地元の食材が使われています(時期によりコース内容は変動します)。

さと芋のポタージュスープと鶏肉のトマト煮込み

「尾崎牛は安定した美味しさで召し上がっていただきたい。そのかわり、他のメニューで個性を出して、お客様に楽しんでほしいと思います。」

コース料理を提供する時間は平均1時間30分~2時間程度。 お客様のスケジュールで滞在時間が短い場合は、提供のスピードも調整してくれます。

豚しゃぶのサラダ

ゴルフ、スポーツキャンプ、サーフィンのシーズンなど、様々なツーリズムも魅力の宮崎県。1年に1回、シーズンに必ずお店を訪れてくれるお客様もいます。

「限られた時間と食事の回数がある中で毎回、紫鈴を選んでいただける。とても嬉しいですね。」と斉藤さんは微笑みます。

宮崎北浦で獲れた真鯛

2度目以降に訪れたお客様には、尾崎牛以外は、できる限り同じ料理を出さないと決めているそうです。ただ、ゆっくりとお食事を提供するだけではない、一人ひとりのお客様の視点にたったおもてなしのこだわり。

訪れるたびに新しい感動を与えてくれることが、お客様に愛される理由のひとつだと感じます。

尾崎牛の理由

調理前の尾崎牛左がロース、右が赤身

紫鈴のメインディッシュの尾崎牛は、宮崎県の尾崎宗春さんが一頭一頭を大切に育てた個人ブランドの黒毛和牛です。

世界的に評価されている希少和牛で、月の出荷数はわずか30頭程度。

・自然配合飼料と天然水
・宮崎の広大な自然と空気、ストレスを与えない環境
・一般的な和牛の飼育期間が約27ヶ月に比べ、32ヶ月以上40ヶ月未満と飼育期間が長い

などの特色があります。

牛肉のサシ(網目状の脂部分)はA5ランクといった肉質等級の評価ポイントの一つとなりますが、尾崎牛はこのサシが「体に良い脂」になるように飼育されており、肉質もさっぱりとしていることも特徴です。

宮崎市郊外にある尾崎牛の肥育牛舎

「和牛は育った環境・飼料などで味に個性が出ます。それが良いこともありますが、紫鈴で提供するお肉は、『来店の度に味が変わる』事だけは避けたいとオープン前から決めていました。」と斉藤さん。

素材の味をいかす鉄板焼だからこそ、お客様はお肉の味の変化に敏感です。安定した美味しさをできる限り提供したいが、通常の和牛の仕入れでは、その実現が難しかったそうです。

「数ある和牛の中でも、尾崎牛は美味しさが安定していました。牛の健康に良いものを与え、人の体に優しい良質なお肉をつくる。そんな尾崎さんの思いにも共感して、ぜひ紫鈴の鉄板焼で尾崎牛を提供したいと強く思いました。」

鉄板で丁寧に調理されていく尾崎牛

世界や日本全国の有名店がこぞって求める尾崎牛、その希少性から仕入れは容易ではありません。

斉藤さんは、その強い思いを事業計画書に込め、尾崎さんのもとへ直接持参し仕入れの交渉を進めたと言います。その思いが通じ、無事に鉄板焼尾崎牛としてオープンできました。

焼肉・フレンチ・イタリアン・・・宮崎県内で尾崎牛を仕入れ、提供ができる店舗は数えるほどしかありません。宮崎県の鉄板焼で尾崎牛を味わえるのは、この「紫鈴〜rindo〜」だけです。

「紫鈴〜rindo〜」の尾崎牛の楽しみ方

メインディッシュの尾崎牛

「紫鈴〜rindo〜」尾崎牛が焼きあがるライブ感を楽しんだ後、一口サイズに丁寧にカットされた焼きたてが提供されます。調理中の味付けは、わずかなお塩のみ。

3種の調味料で、その味を堪能するシンプルな形です。

・宮崎県の塩釜、宮崎海塩工房による炭塩
・北海道産西洋わさびブレンドの特製わさび
・宮崎特産品のミカンの日向夏(ひゅうがなつ)ポン酢

この3種類です。

ロースはワサビをしっかりとのせて、塩をひとつまみ。たくさんワサビをつけても、尾崎牛の脂がワサビ特有の辛さを和らげ、美味しさをより一層に引き立ててくれます。とても繊細で上品な味が楽しめます。

斉藤さんオススメの食べ方は、大根おろしを日向夏ポン酢に浸し、その大根おろしをダイナミックにお肉にのせて食べるというもの。

噛みしめると肉の脂が口の中に広がると同時に、大根おろしと柑橘の爽やかさが程よいアクセントになります。飲み込んだあとも後味がさっぱりとして、また一口・・・と無意識に箸が進んでしまう美味しさです。

鉄板に焼きたてがスタンバイ、お皿があくと追加してくれます

同じ食べ方でも、赤身は尾崎牛の旨みが凝縮されており、ロースと異なる美味しさと調味料とのハーモニーの違いが楽しめます。お店のコースは大きく3種類に分かれていますが、食べ比べできるコースの提案もしてくれます。尾崎牛を楽しみたい方は、ぜひ食べ比べがオススメです。

「お野菜も美味しいですよ。」 お皿にそっと、かぼちゃ・佐土原なす・椎茸のお野菜をのせてくれます。どれも宮崎県産のお野菜。見た目も味も上品で、絶妙な焼き加減です。

お食事、お口直しのデザートと続き、大満足のボリュームです。

鮭といくらの焼飯

「約20年間、ほぼ毎日のように鉄板の前に立っています。でも、お客様の前で調理するときは今でも緊張しますよ。特別な記念日で利用されるお客様の場合は、『今日は特別な日にしたい!』って気持ちが伝わってくるんです。その気持ちに何としてもお応えしないと。」

迷いのない、流れるような動きで焼き上げていく斉藤さん。宮崎の食材のこだわりや、お肉のマニアックな知識、ワインの話題は初心者から上級者まで幅広く。お客様一人ひとりの表情を見ながら、快適な空間をつくりあげていきます。

ワインと、鉄板焼にこだわる理由

今はオーナー兼、鉄板焼の料理人の斉藤さんですが、意外にも飲食業のキャリアはバーテンダーがスタートでした。ある日に訪れた、ワイン通のお客様と出会えたことがターニングポイントだったと斉藤さんは当時を振り返ります。

「お客様からワインの魅力をお話しいただきました。ワイン1本の価値、ワインを嗜む客層、ワインを美味しく飲める期限など・・・。ワインって、こんなに素晴らしいものだったんだ。その特性と経営的な可能性にも衝撃を受けました。『もっとワインについて勉強しなくては』と強く思いましたね。」

ラグジュアリーホテルとして知られるグランドハイアットホテルに勤め、バーテンダーとして表彰されるほどの活躍ぶりだった斉藤さんですが、一転、ワインを猛勉強しソムリエとしての道をめざします。

はじめて宮崎県と縁ができたのは2004年。宮崎牛・宮崎ブランドポークのレストランなどを展開する株式会社ミヤチクの店舗が、東京の銀座にオープンしたことがきっかけでした。

オープンスタッフのソムリエとして採用され、順調にキャリアを積んでいた斉藤さん。しかし、日々を過ごすうちに一つの疑問が浮かびます。

「鉄板焼屋のソムリエは、お客様の背後からサービスをさせていただく形になります。お客様の前には鉄板がありますから、表情の変化も見ることもできない。『お客様の正面に立って、もっとワインの魅力をしっかり伝えたいのに!』そんな思いが強くなっていきました。」

「ワインを楽しく語り合いながら、お客様の表情を見て、しっかりとおもてなしができるものって、何だろう?この鉄板焼のスタイルしかない、そう思いました。」

斉藤さんの鉄板焼への思い。そして、ワインと接客に対する強い思い。それは、ソムリエから鉄板焼の料理人になるための努力の原動力となっていきます。

「ミヤチクのおかげで、良いお肉をたくさん調理できる経験ができました。働かせてもらえて本当に良かったと思います。」

やがて斉藤さんはミヤチク本社のある宮崎県へ移住、鉄板焼の料理人として活躍していきます。

「ケンゾーエステイト」が結ぶ縁

「紫鈴~rindo~」という店名は、ワインを嗜む方なら「おや?」と思ったのでは。

日本人の辻本憲三さん(ゲーム会社カプコン創業者、CEO)が造った世界有数のワイナリー「ケンゾーエステイト」が2008年にはじめてリリースしたワインのひとつ、それが「紫鈴(りんどう)」です。

「ワインが好きだから店名にしたのかな?」と思うかもしれませんが、斉藤さんとケンゾーエステイトの縁はとてもドラマチックです。

最初の出会いは銀座ミヤチク時代で、とある営業マンからケンゾーワインの仕入れを進められたことでした。今でこそ世界的に評価されているプレミアムワインブランドですが、当時は「日本人が造ったワインなんて」と見向きもしない人もいたとか。

「日本人が造ったワイン、素晴らしいことじゃないか!って思いました。ケンゾーエステイトのワインに対する情熱に感銘をうけましたね。」

斉藤さんは、ぜひ銀座ミヤチクで提供したいと仕入れを進めました。

ミヤチク本社のある宮崎県へ移住した先でも、斉藤さんのケンゾーワインへの愛は冷めることはありません。

ケンゾーエステイトと直接取引できるソムリエしか正規品を仕入れることができないルールもあることから、当時の宮崎にはまだケンゾーワインを扱うお店はありませんでした。

斉藤さんは、宮崎でもその素晴らしさを広めるために宮崎での仕入れを実現していくのでした。

「いつか独立し、鉄板焼とケンゾーワインを楽しめるお店をつくれたら・・・」その頃は、漠然とした未来しか想像していなかったと言います。

とある日、仕事帰りにワインバーへ訪れた斉藤さん。たまたま隣に座った男性とケンゾーエステイトの話題になったことから意気投合します。

当時、ケンゾーワインを扱っていたのは斉藤さんのいるミヤチクだけだったこともあり、何度もミヤチクへ足を運んでくれるようになりました。」

鉄板焼とケンゾーワインを楽しめるお店について、その男性のご家族とも交え、語り合う時もあったそうです。親睦を深めていくなかで、思いがけない相談をされます。

「ある日、『自分のお店をやってみなさい』と背中を押していただけました。ケンゾーエステイトが結んでくれた、本当に嘘のような出会いでした。」

「家族とゆっくりワインを楽しめるお店にしてほしい」

男性の強い後押しから、どんどんと話しが進んでいきました。

斉藤さんこだわりの、ケンゾーエステイトのワイナリーを模したワインセラー

オープンの準備を進めるなか「『紫鈴』のワイン名をお店の名前にできないだろうか」と斉藤さんは思い立ち、開店のきっかけをくれたケンゾーエステイトへ相談します。

まだケンゾーエステイトが日本に浸透していなかった頃から仕入れを続けてくれていたこと、宮崎でもその魅力を広めてくれている斉藤さんへ感謝の意味も込め、特別に許可をしてくれたと言います。

ケンゾーエステイトが結んだ縁により、2014年5月に「紫鈴~rindo~」が開店し現在に至ります。

「たまに『紫鈴ってお店の名前、勝手に使ってるんじゃないの?』と、お客様に尋ねられます。ちゃんと許可をいただいていますよ。」
と、斉藤さんはにっこりと笑います。

「変わらない」ことの重要さ

開店から10年、「紫鈴~rindo~」のこれからについて質問しました。

「1年目も10年目も、不安は変わらないかも。大なり小なり、経営者もみんな同じ悩みがあるんじゃないかな。これから老後までどうしよう?って笑」と斉藤さん。

それからスッと真剣な眼差しに変わります。

「僕自身が大事に思うことは『変わらない』こと。この『変わらない』は、ただ『同じことを繰り返す』ネガティブな意味ではありません。変わらないために努力をし続ける、ポジティブな『変わらない』です。

時の流れで、現状は変化する。この変化に、臨機応変に対応していく。新しく何かを始めることと同じぐらい、努力が必要なんじゃないかな。

食材の仕入れ、おもてなし、料理の美味しさ、お店全体の空気感…お客様が「紫鈴〜rindo〜」へいつ訪れても、変わらない満足感をお届けしたい。この思いは、ずっと変わらずに持ち続けています。」

ワインとの出会いから、バーテンダー、ソムリエ、鉄板焼の料理人へと進化を続けてきた斉藤さん。変わらないために、安定した美味しさの尾崎牛にこだわる理由もうなずけます。

お料理やお酒が美味しいだけではない、鉄板焼という、お客様と近い距離で人と人との「縁」を心から喜び、おもてなしする斉藤さんの姿とその思いこそが、「特別な人とすごしたいお店」として、多くの人に愛され続けている理由だと感じました。

※記事内の情報は2024年12月時点のものです
※コース内容は時期によって変動します